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徒然なる妄想の日々
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某所のイラストに触発されて思わず浮かんだ小話です。
テレビシリーズから6~7年後くらい、総士たちは二十歳を越え、あの頃小学校に入ったばかりの子供がパイロット適齢期を迎えた未来設定。
以前と同じような、なんちゃって小話です・・・が、小話というにはだいぶ長くなってしまいました。
こーゆー軽いノリの話は楽しいので、ついつい長くなってしまいます。(^^;)
未来の総士が色んな意味でもてもてなのは、うちのデフォルトです。(笑)






「・・・と、15ブロック?・・・って、どこ?」
目の前に書かれた区画を示す文字に、困り果てて頭をかいた。
アルヴィスの内部は似たような景色ばかりで、どこを歩いているのかさっぱり分からない。
「えっと、さっき見たのが12ブロックだったから・・・」
頭の中でメモリージングされた知識を呼び出してみるものの、どうやら僕には文字情報から空間を把握する能力が弱いらしい。
目指す場所への道順を、脳内でメモリージングされた情報が音声で再生されるのだが、実際にどこをどう歩いていけば良いのかが分からない。
地図が欲しい、と切実に思う。
音声で説明されるのではなく、ばっと頭の中に地図が広がれば良いのに。
――とか言ってる場合ではなくて。
「やばい、このままじゃ完全に遅刻だ・・・!」
さすがに顔合わせ初日から遅刻はやばい。
というか、まずい。
指導教官の厳しさは有名だ。
初日から遅刻、なんて、悪い印象を持たれたくない――絶対に。
せっかく、憧れのパイロット候補生になれたのに。

パイロット――ファフナーのパイロット。
それは僕にとって憧れの存在だ。
僕がまだ小学校に入ったばかりのころ、島は戦争になった。
フェストゥムとかいう敵が攻めてきて、だけど大人達はみんなずっとそいつと戦い続けてきたらしい。
それに対抗する唯一の手段が、ファフナーだ。
あの頃、ファフナーに乗って戦った中学の先輩たちは、僕ら小学生にとってはまさにヒーローのような存在だった。
いずれはあんな風に、僕達もファフナーに乗って戦いたい――それは、特に男子にとっては強い憧れだった。
7年前――蒼穹作戦と呼ばれる決戦計画で、北極へ向かうファフナー部隊を見送ったときのことは今でも鮮やかに覚えている。
島の大人達も、子供たちも総出で、島の未来をかけた戦いに赴く彼らを見送った。
そしてその2年後――フェストゥムが大挙して島を攻撃し、後に第2次蒼穹作戦と呼ばれる対話の道を切り開くための戦いにおいても、ファフナーとそのパイロットたちは、激しい戦いの末に平和を勝ち取ってくれた。
大人達に守られて、アルヴィスに避難するしかなかった僕ら小学生にとって、ファフナーで戦う中学生は、大人よりも強くてカッコいい存在に思えた。
シェルターの中で、子供同士で集まっては目を輝かせて、英雄譚を語るようにファフナーのパイロットの話題で盛り上がった。
今考えれば、かなり大げさに脚色されまくった部分もあったのは事実だけど、それでも、いつかファフナーのパイロットになる、というのはみんなの共通の憧れだった。
そして、僕達が中学に入って、2年に進級した先日。
母さんが、すっと一枚の赤いカードを僕に差し出した。
それを見た途端、どくんと心臓が跳ねた。
まさか、という期待が膨らんで、思わず息を呑んだ。
それはまぎれもなく、ファフナーのパイロット候補生の任命書だった。
「皮肉なものね・・・誰かがやらなければならないことだって分かっているのに、いざ、こうして自分の子が指名されると、どうしてうちの子がやらなきゃならないの?って思ってしまうのよ・・・」
そう言って、母さんは、急に老け込んだような疲れた顔で笑った。
「あんたのシナジェティックコードが低ければ良かったのに・・・そうすれば、コレがうちに来ることはなかったのに、って、そんなことばかり考えてしまうわ。」
そうして母さんは、真っ直ぐに僕の顔を見た。
「以前に比べれば、機体による同化現象はだいぶ緩和されているし、敵の攻撃を防ぐ対策も強化されていると聞くわ。だけど、それでも、前線で戦うパイロットが一番危険に晒されることに変わりはないのよ。もしもあんたが戦いたくなければ、私がなんとしてでも、真壁司令に掛け合ってあげる。」
だから安心して、と、やつれた顔で、それでも気丈に笑う母さんが、僕のことを心配してくれるのはとても有り難いことだけど。
だけど、その時の僕は、高揚した気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫だよ、母さん。」
僕は母さんの心配を吹き飛ばすように、にっこりと笑ってみせた。
「僕が、ファフナーに乗って、母さんたちを守ってみせるから。」
だから何も心配しなくていいよ、と安心させてあげたかったんだけど。
「・・・そう。」
何故か母さんは、哀しそうな顔をするばかりだった。

で、今日はそのファフナーパイロット候補生の、初集合の日なのだ。
訓練自体は数日後から始まる予定だけど、その前に、候補生と教官の顔合わせ、そして訓練に向けた簡単なミーティングが行われることになっている。
何事も一番初めが肝心、というのは母さんの口癖だし、僕だってそんな大事な日に遅刻なんてしたくない。
そもそも、指導教官の羽佐間先生は、規則と規律を重んじるとても厳しい人だともっぱらの噂だ。
しかもかつて僕らの憧れだったファフナーのパイロットだった人だ。
そんな憧れの人に、初日から悪い印象を持たれたりしたら、一番最悪の事態だ。
だけど、どうしよう、と焦れば焦るほど、時間ばかりが過ぎていく。
闇雲に歩き回っても分からなくなるばかりで、自分でも情けないけど、思わず涙が出そうになった――その時、だった。
「おい、そんなところで何をしている?」
後ろから声をかけられて、僕はビクッと飛び上がった。
本当に、飛び上がりかけた。
そもそも、さっきから歩けど歩けど、誰もいなくて――誰かいたら道を聞きたかったのに――この辺は無人のエリアなのだと思い込んでしまっていたのだ。
「・・・あ、あの・・・っ!」
人がいたことへの驚きと、人がいたことの安心感と、とりあえず道を聞かなきゃ!という焦りが綯い交ぜになって、勢いよく振り返った僕は、思わずそのままの姿勢でぽかんとかたまってしまった。
(うわあ・・・)
綺麗だなあ、と、状況も忘れて見惚れてしまう。
さらりと肩にかかる、栗色の髪。
端正な顔、というのはまさにこういうことを言うのだろう。
日に焼かれていない白い肌も、色素の薄い瞳も、感情のない造り物めいた顔立ちも、まるで人形のようだ。
だけど、人形とは違って、すい込まれそうな、それでいて圧倒されるような、不思議な雰囲気に惹き付けられる。
CDCの大人用の制服をすらりと着こなした立ち姿も、品のようなものが感じられる。
「?・・・君は、」
怪訝そうにこちらを見るその動作に、今まで隠れていたその人の顔の左側が視界に入った。
(・・・あっ!)
そこでようやく僕は、その人が誰か分かった。
――というより、思い出した。
左の目蓋の上から頬をはしる傷跡の持ち主は、竜宮島に1人しかいない。
「みっ、皆城先輩・・・!」
かつてジークフリードシステムで、ファフナーの全統括を行っていた戦闘指揮官。
フェストゥムによって島から連れ去られ、そうして北極の地で消えたと思われていたが、その後存在を取り戻して島に帰って来た、稀有の存在。
僕らがファフナーパイロットと同じくらい、憧れた存在。
あの頃、まだ僕らが小学生だった時には、時折姿を見かけることもあったけど、島からいなくなって帰ってきてからは、そういえばほとんど姿を見たことがなかった。
だから、傷跡を見るまで、全く誰か分からなかったのだ。
(・・・なんか、すごく変わった、ような気がする)
もちろん、僕が覚えているのはこの人が中学生だった頃の姿で、今は二十歳過ぎくらいだから、外見が変わっているのは当然なんだけど。
雰囲気、みたいなものが、全然記憶の中のこの人と違う気がする。
あの頃は、近寄りがたくて、機械みたいな冷たい印象が強かったけれど。
今でも、静かにこちらを見据えるその顔は、ちょっと、いやかなり圧倒されるものがあるけれど。
(なんだろう・・・)
近寄りがたいけど、近寄ってみたいと思わずにはいられないような。
冷たいかもしれないけど、手を伸ばして触ってみたいと思うような。
そんな雰囲気が、ある。
そんなことをぼんやりと思っていたら、皆城先輩は、ああ、と思い当たったように目を眇めた。
「君は、確か新しく選出されたファフナーのパイロット候補生だな?」
「えっ・・・、あ、はい!」
ビックリして僕は目を丸くしてしまった。
僕みたいな、単なるパイロット候補生の顔までもう把握していることがビックリだった。
確か皆城先輩は今、真壁司令の補佐的な立場にいると聞いたことがある。
島の運営や防衛、フェストゥムへの対策など、島の中枢に関わる膨大な雑務の大半をこなしているはずだ。
そんな中で、新たに配備される人員もちゃんと頭に入れている――それって、すごいことだ。
僕が驚きのあまり呆然としているのを、皆城先輩はどう理解したのか、何やら納得したように頷いた。
「そうか、初めてのCDCで迷ったのか。ここは慣れない人間には、道が分かりにくいらしいからな。」
そうして僕の置かれた状況をズバリと見抜いて、こっちだ、と手招きをしてくる。
「ちょうど僕も今からブルクに行くところだ。君の集合場所のミーティングルームはその近くだから、そこまで連れてってやる。」
「えっ・・・あっ、いえ、教えてくれれば1人で行きます!」
思いがけない申し出に、僕は慌ててぶんぶんと頭を振った。
一緒に行ってもらうなんて、有り難いけれど恐れ多い、というのが正直なところだ。
「もちろん、次からは1人で行けるようにするんだ。だから今日は特別に、僕がカノンに遅刻に理由をとりなしてやる。」
初日から絞られたくないだろう?と言って、皆城先輩はふっと笑みを浮かべた。
(・・・うわあ・・・)
僕はまたしてもぽかんと、その顔に見惚れてしまった。
それはささやかな微笑だったけれど、たったそれだけで、端正な顔が柔らかで甘いような気配を帯びる。
僕は急にかっと体温が上がったような気がして、なんだかいけないものを見てしまったような、そんな恥ずかしさに襲われた。
――何も恥ずかしいことなんて、ありはしないのに。
なんだか心臓がドキドキしてくる。
訳の分からない事態に混乱している僕を余所に、皆城先輩はさっさと歩き出してしまう。
慌ててその後を追いかけながら、僕はどうしてもちらちらとその姿を見てしまう。
決して華奢というわけではない、すらりとしているけれど均整のとれた、ピンと伸びた真っ直ぐな背中。
(でも、細い・・・)
着やせするタイプなんだろうか、腕も、脚も、あまり厚みを感じさせない。
(指も、綺麗だ)
筋張っているけれど、肉体労働とは無縁な細さの指は、デスクワーク中心だからか、滑らかな白さだ。
何でこんなに気になるんだろう、と、僕は自分で自分を持て余していた。
確かに、かつて戦闘指揮官として憧れた存在であるけれど。
でもそれは、ただ単に英雄に憧れる、という気持ちでしかなかった。
その人が目の前にいて、話したからといって、こういう気持ちになるだろうか?
こういう、訳も分からずに叫び出したくなるような、いたたまれないんだけど時間を止めてしまいたくなるような気持ちに。
――否、違う。
ただの憧れと、この気持ちが違う、ということだけは、分かる。
だけど、どう違うのか、というのが全くさっぱり分からない。
分からないことが、すごく苦しい。
もやもやとした気持ちを抱えながら、僕は黙ってただ皆城先輩の背中を追うことしか出来なかった。
皆城先輩も、連れてってやる、という言葉の通り、ただ僕をミーティングルームまで連れて行くことしか思っていないらしく、特に何かを言うこともなく黙然と歩いている。
だけど、自分でも訳の分からない感情を抱えている僕には、正直、その沈黙がありがたかった。
もしも皆城先輩に色々と話しかけられていたら、それこそ、自分でも考えなしに訳の分からないことを口走ってしまっていただろう。
そんなわけだから、正直、案内してくれた皆城先輩には悪いけど、道順なんてほとんど頭に入らなかった。
頭の中に浮かんでくるのは、皆城先輩の顔とか、さっきのほんの僅かな笑顔とか、後ろ姿とか、そんなのばかりだった。
「――ほら、着いたぞ。」
唐突に声をかけられて、僕ははっと顔を上げた。
いつの間にか目的のミーティングルームに到着していたらしく、シュン、と音を立ててドアがスライドする。
(もう着いたんだ・・・)
僕は内心でガッカリしつつ、顔には緊張を浮かべて部屋の中に入った。
途端、
「遅いっ!」
鋭い鞭のような声が、耳を打った。
「すっ、すいません!!」
僕は慌てて頭を下げる。
「まったく、初回のミーティングから遅刻してくるとは・・・、総士?なんでお前までいるんだ?」
鋭い声が、急に驚きと戸惑いに変わる。
そろそろと顔を上げると、スクリーンの前にいた赤い髪の女性――これが噂の羽佐間教官だ――が、驚いた顔で皆城先輩を見ている。
ざわっ、と部屋の中にいた、他のパイロット候補生たちにも、さざめきが走った。
それはそうだ。
僕と同じく、彼らもまた、皆城先輩を見るのは久しぶりで、色々と噂の人物なのだから。
今では半フェストゥム半人間という、竜宮島においても特殊な存在だから、そういえば同級生の女子の中には、まるで神秘的な存在にように見ていた子もいたっけ、と今更ながら思い出す。
実際のところ、僕にはどうしたって、皆城先輩がフェストゥムと同じ存在だなんて思えない。
フェストゥムは見た目だけだったら、黄金に輝いて綺麗だけど、皆城先輩はもっとずっと綺麗だ。
黄金じゃなくても輝いてなくても、その存在自体が段違いに、綺麗だ――と、思う。
それはともかく、皆城先輩は部屋の中の好奇の視線など全く気にも止めずに、羽佐間教官に向かって、
「この子はまだメモリージングの応用が上手くいっていないらしい。アルヴィスの15ブロックで迷っていたから、僕がここまで連れてきたんだ。だから、今日のところはあまり叱らないでやって欲しい。」
皆城先輩の言葉に、羽佐間教官は少し考えた様子で、そうか、と頷いた。
「15ブロックまで辿り着いたということは、本来ならば余裕を持って間に合っている、というわけか。」
「そうだ。この子には僕がきっちりと言い含めておいたから、次に遅刻したら、その時はちゃんと叱ってやってくれ。」
その言葉に、僕は驚いて皆城先輩を見たが、当の皆城先輩はしれっとした顔をしている。
何か言い含めれらただろうか――と考えて、それが、皆城先輩が僕を庇ってくれての発言だと分かった。
(・・・うわあ)
なんだか無性に嬉しくなる。
ふわふわと、舞い上がった気分に、なる。
「じゃあ、僕はこれで。」
が、あっさりとした皆城先輩の言葉に、そんな気分は一瞬で断ち切られた。
そのまま振り返ることなくドアを出て行こうとする背中に、思わず、
「皆城先輩!」
何も考えずに僕は叫んでいた。
叫んでしまってから、盛大に焦った。
なんだ?とドアに手をかけた姿勢で皆城先輩が振り返る。
――ええと、何か言わなきゃ・・・あっ、お礼!
ここまで連れてきてくれたことにお礼を言ってなかったことに、ようやく思い当たって、またしても大いに焦る。
あやうくとんだ無礼者になるところだった。
「あのっ、ここまで連れてきてくれて、ありがとうございました!」
きちんと90度に頭を下げて、誠心誠意の感謝を述べる。
一瞬の後、ふっと柔らかな気配がして。
「たまたま通りかかっただけだ。こんな幸運は、二度とないからな。」
顔を上げた僕に、あのさっきの、柔らかな微笑を見せて。
シュン、と無常にもドアが閉まる。
白いドアに、綺麗な笑みの残像が焼き付いて。
羽佐間教官に注意されるまで、僕はその場にぼんやりと立ち尽くしていた。



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